消防士の年収を徹底解説|給料・初任給手取り・賞与(ボーナス)・各種手当


この記事では、以前消防士として働いていた筆者が、その経験をもとに消防士の年収や待遇、仕事内容などを内部的視点でお伝えさせていただきます。

消防士というのは「地方公務員」であり、その身分には大きく分けて二つに分かれます。

消防士の年収や待遇は各市町村が定める給与条例等に基づいており、市町村により差があるということが前提となります。

概ね、大都市の職員の給与ほど高い傾向にあります。

二つの身分というのは「公安職」か「行政職」かです。

公安職とは、一般の人が思い浮かべる消防士の仕事…火事を消したり、救急車に乗っていたり、それに加えて火災予防の指導をしたり…こうした「いわゆる消防士」としての業務だけをする消防士の採用区分のことを言います。

行政職とは身分的には市役所、区役所などにいる職員さんと同じ「行政」を行う公務員職員としての採用区分となり、いわゆる消防士の現場の仕事と行政マンとしての消防行政施策の企画立案や実施、人事や経理などの総務的な仕事をすることもある採用区分となります。

消防士の年収や待遇

消防士の平均年収は約700万円。

これまでにお話した通り、消防士の給与は各市町村の条例「〇〇市職員給与条例」等に基づき、その給料表に定められた給与が支給されます。

そもそも公務員の給与や待遇は(賛否ありますが)民間の大企業に準じるとされていますので、概ね好待遇と言えます。

公安職として採用している消防局、消防本部(政令指定都市や中核市規模の消防組織は消防局、それより小さな市町村は消防本部と呼称されています)の場合「公安職給料表」に基づき、行政職として採用している消防局では「行政職給料表」に基づき給与が支給されます。

一般的に「公安職=危険な仕事に従事」ということから行政職給料表に比べて高く設定されているようですが、最終的に到達できる階級、ポストなどを考慮してみると、どちらが高給であるかは一概には言えないようです。

消防士になるには

消防士になるには各市町村の実施する職員採用試験を受験し、合格しなければいけません。

このとき注意しなければいけないのは受験に年齢制限があることです。

大卒の場合でだいたい20代後半までのところが多いようです。

消防士の採用区分としては、大学卒のⅠ類や上級と高校卒のⅢ類や中級という区分に分けられます。

社会的使命の高さやイメージの良さ、待遇の良さなどから人気の職業となっており、受験倍率は高くなっていて狭き門です。

消防士の初任給は

前段でも書きました通り消防士の給与は条例の給料表に定められており、大卒のⅠ類か高卒のⅢ類かによって、そのスタートラインが変わります。

年齢や前職経験の有無などが加味されることもあります。

例えば高卒の消防士の初任給は給料表1級8号からスタート。のように定められていて、給料表によると1級8号は142,000円となっています(あくまで一例です)。

これが大卒の場合、2級からスタートで2級8号からスタートとすると194,500円となります。

このように高卒と大卒では初任給で約5万円の差がありますが、私の体感的な経験上、消防士という経験と実力がものを言う世界で4年早く消防士となり同じ年の大卒採用組より4年多く経験を積んでいることと、その間4年分給料を受け取ってることを考えると、必ずしも大卒で消防士となったほうが良いとは限らないと感じていました。

芸人の世界ではないですが、体育会のテイストが強い消防士の世界においては採用年次が先輩後輩を決定するので、23歳の大卒新人より20歳高卒2年目の消防士が先輩になります。

Ⅰ類とⅢ類では昇任試験を受けられるまでに要する期間には差があり、Ⅰ類で2年で受験できるところがⅢ類だと4年必要だったりします。

しかし、高卒で採用され4年経った時点で最初の昇進試験が受けられるので、最短で同じ年の大卒消防士が採用される年には一つ階級を上げられるチャンスがあることになります。

また、転任試験といってⅢ類からⅠ類へ転級できるシステムもあるので、高卒で採用され大卒に比べて4年分多い経験と給与を手にしながら大卒と同じカテゴリーにランクアップさせることも可能です。

上記のような点は目指す消防局に問い合わせてみて、それぞれの実情に合わせて高卒が有利か大卒が有利か判断することとなり、一概にどちらが有利かは言えません。

消防士採用後

消防士として採用されると、まず最初の半年から1年は各都道府県もしくは政令指定都市に置かれた消防学校に入校し、訓練や必要な知識の習得に励むことになります。

学校とは名付けられていますが、民間企業の研修所だと思っていただいて結構です。

ですので学費を納めるのではなく、消防学校にいる期間もしっかりと給料が貰えます。

したがって、現場の消防署に配属されるより前の消防学校在校中にいただく最初のお給料が初任給となります。

消防学校は基本的に寮生活で、慣れない共同生活と、学生生活で緩みきった精神と肉体を日々の訓練で極限まで追いつめられる中でいただいた初任給の重さは一入であったと記憶しております。

消防学校修了後

消防学校を修了しますと、晴れて一人前の消防士です(実際には現場経験ゼロでまだまだ半人前以下ですが)。

消防学校修了後は通常全員が消防署の消防隊に配属されます。

女性の場合には救急隊や日勤の予防課に配属されることもあります(女性消防士が消防隊になれるところは増えつつありますが、まだ一部の消防局のみです)。

「消防士」=「火を消す人」というイメージですが、消防士の仕事はそれだけではありません。

レスキューやオレンジと呼ばれることもある救助隊も消防士ですし、救急隊員も消防士です。

消防隊、救助隊、救急隊の仕事がいわゆる消防の現場の仕事です。

現場以外の仕事ってあるの?と思われるかもしれませんが、消防の大事な仕事の一つに「予防業務」というものがあります。

消防にとって一番大切なことは「火事を起こさないこと」。

そのための業務をしているのが予防課となります。

予防課の中には「予防係」「危険物係」「建築係」などがあります。

各係の業務内容の詳細は省きますが、予防課のお仕事も消防士の仕事の一つで、消防署内で制服を着て勤務しています。

また、「行政職」の消防士採用の場合、人事や経理を担当する総務系の仕事や消防行政施策を企画立案、実施する本部の企画課的業務に就くこともあります。

消防学校の教官も一つのポストです。

それ以外にも現場ではないものの交代制勤務となる119番通報を受信する通信課(指令センター)の業務など様々な業務から成り立っており、その業務によって年収も変わってきます。

消防士の給料の構成

さて、上記の通り、消防士と一口に言っても様々な仕事やポストがあり、それによって給料も変わります。

消防士の給料は「基本給」「時間外手当(残業代)」「ボーナス」が基本としてあり、それに加えて現場の仕事の場合には様々な手当てが付くこととなります(但し、これら手当は各消防局(本部)によって違いが大きいと思われます)。

現場の消防士の勤務体系は交代制というものです。

それぞれの消防局によって違いますが2交代制か3交代制となっており、一回の勤務が24時間勤務となります。

この体制で勤務している手当として「隔日勤務手当」があります。

また、この24時間勤務の内、実際の勤務時間とされているのは16時間のみで(普通の仕事の2日分働いていることとなります)、勤務時間外とされる深夜帯に出動などの業務が発生した場合には、その時間に対し時間外手当が出ます(深夜割増あり)。

火災や救急の出動があった場合には「出動手当」も出ます。

出動手当は1回につき300円~600円程度です(時間に応じて)。

これが高いか安いかは何とも言えないところですが、消防隊が月に数回から10回程度の出動なのに対し、救急隊は多いところだと毎日10回前後出動します。

そうすると月に10回の勤務(1回の勤務で2日分の勤務なので)で月100回出動×300円でひと月30,000円の出動手当となり、なかなか馬鹿にできない額となります。

上記以外に各隊員ごとの「資格による手当」もつきます。

例えば、消防車や救急車を運転する資格を持つ隊員が消防車や救急車の運転を担当した日には「運転員手当(機関員手当)」が、救急救命士の資格を持つ救急隊員が救急業務についた日には「救命士手当」が付きます。

また、一番大きな手当となっているのが「休日勤務手当」です。

前述の通り、現場の業務にあたる消防士の勤務は交代制勤務となっており、その勤務日数は単純に完全週休二日制を基に割り当てられています。

したがって、そのサイクルには祝祭日の分の休日が反映されないため、祝祭日及び年末年始(12月29日~1月3日)に勤務があたった際には手当による費用弁済として補填するという考えに基づき支給されます。

1回の勤務(2日分)で祝祭日該当が1日の場合、8時間分の休日勤務手当が支給されます。

計算としては基本給を基に算定された各職員の時間給に休日割り増し0.35倍を加した額、例えば時間給2,000円の職員一日当たりの休日勤務手当は2,000円×1.35×8時間=21,600円となります。

ゴールデンウィークや年末年始など祝祭日が連続する日は1回の勤務で2日分の休日勤務手当が付き、その場合、上記の例だと1回の勤務で43,200円の手当が支給されます。

これが、現場に恥じ臆されている消防士にとって大きな収入源になります。

民間でも中小零細企業では完全週休二日制でなかったり祝祭日が休みでない会社も多い中、「民間大手に準ずる」というところで、この点も手厚いと感じます。

一番手当が多く支給されるのは

出動回数が多く、夜間の出動で時間外手当も多く発生する救急隊が手当の上積み分は大きいです。

救急救命士の場合には、更に救命士手当も支給されます。

ただ、1日10件出動というのは感覚的にはほとんど出動しているようなものであり、夜もほとんど仮眠もとれずに出動しているのを見ると、命を削って働いている代償としては安いくらいとも感じます。

ボーナスについて

消防士は地方公務員として年2回のボーナスの支給があります。

一般的にはボーナスと呼ばれる賞与ですが、公務員の場合は「期末手当」なるものと「勤勉手当」なるものが合わさったものです。

勤勉手当の中には「成績・能力を反映する」という趣旨がありますが、実際には著しい欠格事項がない限り反映されません。

公務員ですから業績が反映されることもなく、ここでも民間大手に準ずるという基準になり、1回の賞与につき、おおよそ基本給の2.2ヶ月分くらいが相場です。

今の時代、どんな大手企業でも業績が急落してボーナス大幅カットということもありうる中で、ほぼ決まった額のボーナスが必ず支給されるというのは大きなことですね。

また、上記の手当に加えて、家族がいる場合の扶養手当、賃貸住宅に住んでいる場合の住居手当、通勤手当等も支給されます。

昇給と最高年収

昇給は一年に一度の定期昇給と、昇任(一般的には昇進と呼ばれていますが、公務員の世界では昇任と言います)することに伴う昇給があります。

定期昇給の場合には給料表の号だけが一つづつ上がるだけなので、数千円の増額に留まります。

一方、昇任した場合には級が上がりますので、数万円の増額となります。

ですので、年収を増やすためには昇任することが必要と言えます。

消防士が昇任するために、最初の二つの階級は試験に合格する必要があります。

「消防士」というのは職業の名前であると共に階級の一つの名称でもあります。

階級は消防士からスタートし、消防士長、消防司令補、消防司令…と続いていきます。

この内の消防士長と消防司令補に昇任する際に試験があるのです。

試験は1次の筆記試験と2次の実技試験と面接があります。

早ければ大卒なら2年で消防士長試験を、それに合格するとその2年後に消防司令補試験が受けられますので、最短で5年目には消防司令補になれるのです。

ちなみに行政職の消防司令補は「主任」という行政職の肩書もつきます。

それより先の階級は人事評価によって査定され昇任していきます。

また、行政職の場合、そうして順調に昇任していけば最終的に消防局のトップになることも可能です。

消防局長の年収も条例の給料表に基づくので、仮に給料表の一番最後の号級までいったとすると、基本給は約月57万円となっておりますが、管理職手当や賞与など含めると年収では約1500万円程度だと考えられます。

まとめ

私の経験もふまえて総合しますと、消防士としてのやりがいと年収アップを同時に目指すなら、まず救急隊に配属してもらい、充分な救急現場の経験を得て国家試験の「救急救命士試験」を合格し(各組織で養成期間があります)、救急救命士になること。

採用から10年目くらいに消防司令補となって、救急隊長となり、できるだけ現場配属でいられるよう努め(努力のしようがないことが多いですが)、最終的に消防司令長(課長級)での定年退職を目指すのが理想形の一つのような気がします。

ここまで何度も述べてきました通り、消防組織というのは各市町村によって組織形態から待遇から何から何まで全く違うこともあります。

何せ、約1万8千人の職員を有する東京消防庁から100人前後の職員からなる町村消防まであるわけですから。

ですので、ここまで述べてきたことはあくまで、とある都市の消防士を一つのモデルとした一例とご理解いただき、もし消防士を目指す方が読まれたなら、自分が行きたい消防はどうなのか…当該市町村の条例等を見てみたり、現役の消防士に話を聞きに行ったりすることをおすすめします。

最終更新日:2020年1月13日

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