精神科医の年収を徹底解説|給料・初任給手取り・賞与(ボーナス)・各種手当
この記事では、精神科医の年収について見ていきたいと思います。
主なデータは、2012年9月公表に公表された、独立行政法人労働政策研究・研修機構による「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(以下、「勤務医調査」)から引用しています。
この「勤務医調査」のデータを読み解きつつ、実体験に基づく最近の勤務医事情なども交えながら、具体的に紹介していきたいと思います。
精神科医の平均年収は1230万円が相場
「勤務医調査」に基づくと、精神科医の平均年収は1230.2万円との結果でした。
これは、他の診療科と比べても平均的な額です(最高平均額は脳神経外科で1480万円、最低平均額は眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科で1079万円)。
しかし、これはあくまで平均値であり、主たる勤務先がどこなのか、開業しているか否か、勤務時間あたりの給与に換算すると他の診療科と比べてどれぐらい異なるか等、総合的に評価する必要があります。
精神科医の年収・給料の構成要素
精神科医の年収は、「基本給(外勤先を含む)」「当直手当(当直回数)」「ボーナス」「各種手当て」の構成になっている場合が多くあります。
基本給(外勤先を含む)はどうなっているの?
一般的に、精神科に限らず専門科に進んだ医師の給与は、大学病院に勤めるか、その他の総合病院などに勤めるかで、主たる勤務先から支給される給与額が大きく変わります。
大学病院に勤務している場合、その地域にある他の病院で週1回の「外勤」と呼ばれる非常勤業務をしている場合が多いです。
そして、大学からの月給と、週1回×4回の非常勤の給与が、同程度の場合もあります。
筆者は、この働き方に該当しており、これに加えて大学と非常勤先の当直を追加することで平均的な年収を得ています。
一方、大学以外の総合病院や単科精神科病院(いわゆる「精神病院」)ではそのような「外勤」はなく、給与は勤務先からそれなりの額が支給されます。そして多くの場合、外勤を含めた大学勤務で得られる給与よりも高くなる傾向があります。
当直手当てはどれくらい?
当直を行う場合、常勤先で行う当直と非常勤先で行う当直とで金額が異なる場合が多いです。
常勤先の場合、1回あたり2万円〜3万円あたりが相場と考えられます。
一方、非常勤先(すなわち総合病院精神科もしくは単科精神科病院)での当直は、1回あたり4万円〜5万円になる場合もあります(日当直と言われる24時間勤務だと、1回8万円〜10万円程度)。
これは、総合病院精神科や単科精神科病院では常勤医師が少ない場合も多く、外来や当直の人員を確保できないこともあり、やや高額に設定した当直料をもって医師を確保している意味もあります。これは地域差が大きいと考えられますので、医療過疎が深刻な地域であれば、手当てはもっと上がると考えて良いでしょう。
当直回数について
給与に直結するのが当直回数です。「勤務医調査」によれば、精神科は月5回以上当直する医師の割合が20.0%で第4位と、比較的高い割合となっています。一方、当直中にみる患者数は少なく、当直中の平均睡眠時間は全診療科のなかで第1位となっています。
以上の理由で当直回数が多くなっているのは間違いありませんが、当直翌日が通常通りの勤務になっていることも多いです。
夜中に電話相談を受けたり、不穏患者への対応にあたることも稀ではないため、当直翌日の勤務が大変な場合もあります。
それでも、土日や連休を利用して2日~4日間程度連続で勤務をこなす医師もいます。
これは、救急車の対応を絶え間なく行う救急科の医師ではできない働き方です。
賞与(ボーナス)
賞与は支給される病院とそうでない病院があるため、一概には言えません。
もちろん、賞与が支給されない病院では月給が高めに設定されていることもあります。
各種手当はどういったものがある?
措置診察
精神科医としての当直以外の手当てと言えば、「措置診察」が挙げられます。
精神科の入院には、代表的なものとして「任意入院」「医療保護入院」「措置入院」があります。
任意入院は患者本人の同意に基づく入院、医療保護入院は患者以外の親族の同意に基づく入院、措置入院は都道府県知事の命令に基づく入院です。
医療保護入院と措置入院は、精神科経験3年以上を有する医師で、且つ精神保健指定医という資格を取得した医師のみが判断できます。
ただ措置入院の場合は、自傷他害の恐れがある患者であり、精神保健指定医2名が診察をして2名とも入院を要すると判断した場合にのみ患者が入院となります。
この入院の要否を判断する診察が、「措置診察」と呼ばれるものです。
措置入院の需要は常にあり、措置診察をするために地域の精神保健指定医が持ち回りで担当している場合もあります。
筆者の自治医大では1回2万円弱の支給がありますが、当番日に措置診察自体がない場合もあるので、固定した収入ではありません。
看護学校への講義
全ての医師が行うわけではありませんが、ある程度経験年数を積んだ医師であれば、看護学校への講義を依頼されることもあります。
授業を行う場所は看護専門学校が多いですが、授業料は決して高いものではありません。
講義の準備などに費やす時間を考えると正直割が合うものではありませんが、看護師の卵である人たちに伝えたいことを直接伝えられるというのは大変貴重な機会ですし、楽しいものです。
また、このようなプレゼンテーションを積み重ねていくことで、自分のスキルアップに繋がったり、資料が蓄積していくことで新たなプレゼンテーションの準備が楽になったりするので、長く続けられると良いでしょう。
私も複数の看護学校で講義を担当していますが、稼ぎに行くという感覚はなく、授業を楽しみにして行っています。
精神鑑定
特定の医師に依頼が集中する場合が多いかもしれませんが、経験豊富な医師が日常業務と並行して行っている場合があります。
何らかの犯罪行為があり加害者に精神疾患があると想定されるような場合、責任能力を問えるかどうか、精神科医が診察をして鑑定書を作成する必要があります。
鑑定書を作成し終えた後に鑑定料が払い込まれますが、私が経験したあるケースでは40万円程度でした。
ただし、複数の医師あるいは心理師が関与して作成していくため、これを分配することになります。
面会のために何度も拘置所に足を運んだり、心理検査の予定を組んだりしながら、膨大な量の資料をもとにして長文の鑑定書を作成します。
大きな社会的責任を伴う作業でもあるため多大な労力を要する仕事でもありますが、司法精神医学と呼ばれるこの分野を専門とする精神科医も少なくありません。
精神科医の雇用形態別の年収を見る
精神科医に限らずそうですが、勤務医か開業医かによって給与形態や給与額は全く変わってきます。
勤務医の場合の精神科医の年収
先に述べた通り、勤務先が大学病院であるかどうか、当直回数をどの程度こなすか、などによって幅はあります。
ただ、私の経験や周囲の話を聞く限り、大学病院では1000万円〜1500万円程度、総合病院精神科や単科精神科病院では1300万円〜1800万円程度のことが多いと思われます。
もちろん大学病院勤務でも、経験年数が多く他の病院で当直回数をこなして2000万円ちかく給与を得ている医師もいます。
開業医の場合の精神科医の年収
少し古いデータですが、日本医師会総合政策研究機構が2006年のデータをまとめた「診療所開設者の年収に関する調査・分析」によれば精神科開業医の「手取り」年収は1393万円で、眼科に次ぎ第2位となっています。
しかし、この報告書を見ると、「手取り年収の高い一部の客体が平均を押し上げている」と指摘されており、多くの開業医の収入はもう少し低い可能性があります。
おそらくは、精神科領域でも「自由診療」で利益を上げている開業医があるため、その開業医らが平均を押し上げているものと考えられます。
精神科の開業は初期費用が抑えられると言われますが、他の診療科ほど高収入を目指すのは難しいのかもしれません。
それでも、デイケアと言われる通所施設を併設するなど工夫は可能ですので、やはり開業医ごとに収入のバラツキは大きいと言えるでしょう。
精神科医は、最高でどれくらいの年収まで目指せるか?
勤務医として働いている限りは、2000万円あたりの収入が一つの壁になると考えられます。
一方開業医では、「診療所開設者の年収に関する調査・分析」の図に基づくと、最高6000万円の手取り収入を得ている診療所もあることが分かります(内科では1億円、眼科では9000万円を超えるところあり)。
診療の内容や経営手法までは分かりませんが、データだけ見れば6000万円までは目指せると言えるでしょう。
精神科医はどういった勤務先だと年収が高くなるか?
先に述べた通り、大学病院勤務、その他の病院勤務、開業医勤務のどれかによって年収は異なります。
ここでは、それぞれの勤務先で収入を高くする方法について見ていきます。
大学病院で働く場合の年収
大学病院の基本給や当直料は比較的安いため、「外勤」での当直回数をどの程度増やすかによって年収は変わってきます。
例えば月に2回、土曜か日曜に1回あたり10万円が支給される24時間勤務の「日当直」を定期的に行えば、月に20万円、年240万円の収入アップが期待できます。
ただし、この収入は「額面」の金額であり、源泉徴収などがほとんどなされていないこともあるため、累進課税に基づき課税されることを知っておく必要があります。
また、大学では先に述べた看護学校での講義・措置診察・精神鑑定の依頼を受けることが多いため、これらを積極的に行うことも収入を上げることに直結していきます。
総合病院・単科精神科病院で働く場合の年収
多くの場合、勤務先の給与だけで充分な収入が得られる場合が多いと考えられます。
より高収入を目指す人の場合は、同時に他の施設で非常勤として当直を掛け持ちしている場合もあります。
このような勤務形態を続けられれば、2000万円程度を目指すことも可能になってくるでしょう。
開業医で働く場合の年収
「診療所開設者の年収に関する調査・分析」に基づく2006年のデータでは、手取り給与にして1393万円ですが、これも立地や集客力によって大きく異なるでしょう。
デイケアを併設しているクリニックや自由診療を行っているクリニックでは、収入は上がるかもしれません。
ただ、自由診療を行っているクリニックの中には、エビデンスに乏しい治療や検査を提供している場合もあります。
収入を上げることも大事ですが、自由診療においては医師としての良識あるいはモラルが試されるでしょう。
これから精神科医になる人へのアドバイス
ここまで、給与面に関することを中心にお伝えしてきました。
どうしたら高い給与が得られるかを考えることは、生活の質を上げることや、自らのスキルアップのために自己投資(海外学会参加や留学、書籍の購入など)を続けていくためにも必要なことです。
とは言え、日々の臨床業務を真面目にこなしていれば自然と給与はついてきます。
また、「精神科の患者さんと日々接するのは大変そう」というイメージを抱かれがちですが、幻覚妄想状態から抜け出して改善していく人たちや、苦しみながらも長い時間をかけて成長していく姿を側で見ることができるのは、精神科医ならでなの醍醐味でもあります。
また、人の心や脳という未知の領域が多く残されている分野でもあり、学問的にも深みのある世界です。
「勤務医調査」の中にある給与・賃金の満足度は、全診療科の中で第3位に位置しており、こういったやりがいの面も大きいと思われます。
これから精神科医を目指す人たちに伝えたいのは、精神科医は「やりがいと給与のバランスが非常に良い」ということです。
志ある方には、是非精神科医を目指してほしいと思います。
さいごに
精神科医は、当直回数の多さが目立つものの比較的給与水準は高く、医師自身の満足度も高い職種です。
医師としてのやりがいも、給与面においても、バランス良く達成できる可能性を持っています。
この記事を読んで精神科医に興味を持っていただけたら幸いです。
最終更新日:2020年7月15日