プロ棋士の年収を徹底解説|給料の構成要素・賞金・目指せる最高年収
藤井聡太七段のタイトル挑戦や、「将棋メシ」でも注目を集める将棋。
その「将棋」を指すことを仕事にしているのがプロ棋士と呼ばれる人々です。
将棋を極めたプロ棋士が得ることのできる年収を、能力や仕事別に解説していきたいと思います。
(棋士の段位やタイトル保持者は2020年6月時点でのものです。)
プロ棋士の平均年収は約700万円~800万円が相場
プロ棋士の平均年収はいくらぐらいになるのでしょうか?
日本将棋連盟にプロ棋士として登録されている人数は約160名で、その年収の平均は約700万円~800万円と推定されます。
トップ棋士になれば年収が1億円を超えることもありますが、年収1000万円を超える棋士は上位10%と言われています。
では、その年収はどうやって決まっていくのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
プロ棋士の年収・給料の構成要素
そもそもプロ棋士は、一般的な会社員とは違い個人事業主扱いになります。
なので、月々の給与も固定ではなく成績によって大きく変動します。
では、棋士の年収がどのような要素で構成されているのか解説します。
基本給・能力給などはどうなっているの?
棋士が貰える基本給は、大きく分けて「対局料」「指導料」「解説料」の3要素で構成されています。
他にもタイトル戦の立会料や日本将棋連盟の役員料などがありますが、給与に大きく関わる三つについて解説していきます。
対局料とは
「対局料」は将棋の対局をすることで貰える給与のことです。
これは純粋に将棋を指すことで貰える給与で、勝敗は関係ありません。
なので、どんなに圧倒的な勝ち方をしても、どんなに無様な負け方をしても金額は変わりません。
対局料の金額は、棋士が所属するリーグや参加している大会によって変動します。
後ほど解説しますが、棋士は実力が近い人達が集まるリーグに所属しており、上のリーグに行けば行くほど1局あたりの対局料は高く設定されています。
1番下の順位戦C級2組の対局料は1局あたり約15万円、最上位リーグの順位戦A級では対局料は約60万円と言われおり、4倍の差があります。
リーグ戦は対戦数が決まっているので対局料の変動はありませんが、トーナメント方式の大会も多くあります。
その場合は1回戦で負ければ1局分しか貰うことができません。
またトーナメントの上位に勝ち進むと、1局あたりの対局料が上がる仕組みになっています。
対局料は上のリーグに行けば行くほど、大会を勝ち進めば勝ち進むほど上がっていく仕組みで、つまり強ければ強いほど高くなる要素になります。
指導料とは
「指導料」は将棋を教えることで貰える給与です。
棋士の仕事として対局の他に「将棋の普及振興」という側面もあります。
そのため、日本将棋連盟の主催する将棋教室で生徒に対して将棋の指導を行います。
将棋教室は初心者対象のものや女性対象のものなどいくつか開催されており、開催頻度も週2回の教室から月2回の開催まで様々です。
その教室の講師を務めることで「指導料」を貰うことができます。
指導料も対局料と同じく変動制で、講師を務める棋士の段位によって変動します。
同じ1回3時間程度の指導でも、プロになったばかりの4段であれば1回数万円、実力を認められた7段であれば1回10万円を超える場合もあります。
解説料
「解説料」は将棋の対局を解説することで貰える給与です。
毎週日曜日にやっている「NHK将棋トーナメント」やタイトル戦の中継では、その対局を必ず対戦者以外のプロ棋士が解説を務めます。
この解説を務めることで解説料を得ることができます。
また、現在はコロナウイルス感染症の影響で行っていませんが、タイトル戦は地方を転戦しながら開催されます。
その際に、現地のファンに向けた大盤解説会というイベントが開催されます。
ここでもプロ棋士がステージに登場し、対局の1手1手の意味や今後の展開などを解説します。
解説料もその棋士の段位によって変動し、上位棋士になれば1回10万円を超えることもあります。
賞与(ボーナス)はあるの?
最初に説明したように棋士は個人事業主なので、会社や個人の業績によって支払われる賞与という概念はありません。
ただ、各タイトルを取ることで得られる大会賞金は、基本給とは別に貰える報酬という意味ではボーナスという扱いもできるかもしれません。
大会賞金は各大会によって規定されていて、将棋界最高賞金の「竜王戦」では優勝賞金4400万円です。
将棋の最高位とされる「名人戦」では、優勝賞金2000万円を獲得することができます。
他のタイトル戦についても賞金が設定されており、数百万円~一千万円が優勝賞金として支払われます。
ちなみに、タイトル戦の場合敗者にも賞金が支払われます。
なので、タイトル戦に出場することができれば、確実にボーナスを受け取れるということになります。
対局以外に貰えるお金はあるの?
ここまで、将棋を指すことに関連するお金に関して解説してきました。
ただ、棋士が報酬を得ているのは将棋を指すことだけではありません。
他にも、以下のような方法で収入を得ている棋士もいます。
書籍出版
有名なものでは羽生九段の著書「決断力」「直感力」、渡辺明三冠の著書「勝負心」「明日対局」など、一般書籍から詰将棋本、将棋の戦術書など棋士が著作した出版物が多くあります。
これらは出版物なので、著作者として印税収入を得ることができます。
漫画・ドラマ作品の監修
将棋をテーマにした漫画やドラマのクレジットを見ると「将棋監修」というクレジットがあり、そこにプロ棋士の名前が書かれています。
これは作品中に登場する将棋の盤面をプロの目で見て不自然な配置になっていないか、登場人物が話す内容が合っているかなどをそのプロ棋士が監修しています。
これも漫画の話数や将棋の登場回数によっても変動しますが、数十万円の報酬を得ることができます。
メディア出演
最近は藤井聡太七段のタイトル戦という話題があり、お昼のワイドショーでも将棋の解説がされる場面を見かけますが、これも解説をしている棋士に対しては出演料が支払われています。
他にもドキュメンタリー番組の密着取材やトーク番組のゲスト出演、新聞の取材記事などメディアに出演することで、出演料を得ることができます。
YouTube
最近では自分でYouTubeのチャンネルを開設し、将棋に関する動画を投稿する「棋士YouTuber」として活躍している棋士もいます。
有名なチャンネルだと、サラリーマンから棋士になった折田翔吾四段の「アゲアゲ将棋実況」はチャンネル登録者4万人を超えており、広告もついているのでYouTubeからの広告収入も得ることができます。
このように、棋士は様々な収入源を持っているということがお分かり頂けたかと思います。
プロ棋士の能力別の年収を見る
プロ棋士が所属する「順位戦」とは何か?
対局料のところでも解説しましたが、プロ棋士はそれぞれの強さに合わせてリーグ戦に参加しています。
それが「順位戦」と呼ばれるリーグです。
順位戦は「名人」のタイトルを争うためのリーグで、C級2組、C級1組、B級2組、B級1組、A級の5リーグに分かれており、A級に所属できるのは10人です。
名人に挑戦できるのは、このA級リーグを勝ち抜いた1人だけです。
リーグ戦は1年を通して行われるので、1年間安定した強さを発揮した棋士が名人への挑戦権を獲得するということになります。
また、各級リーグ上位の棋士は翌年一つ上のリーグに昇級、逆にリーグ下位だった棋士は下のリーグに降級となり、毎年この昇級争い、降級争いにも注目が集まります。
ちなみに、順位戦は飛び級という制度は存在せず、新人棋士はC級2組に所属になります。
なので、どれだけ強い新人でも、名人になるためには最低5年が必要ということになります。
級ごとの対局料はどうなっているの?
対局料の項目でも説明しましたが、棋士が所属する級によって対局料の設定が変わります。
対局料にも書いた通りA級所属の場合は1局約60万円、C級2組所属の場合は1局約15万円が対局料になります。
他の級に関して以下のような金額になっています。
- C級1組 1局約20万円
- B級2組 1局約30万円
- B級1組 1局約50万円
級が上がるにしたがって、1局あたりの金額も高くなるようになっています。
名人になるとリーグ戦を戦わなくて良くなりますが、A級に所属している棋士よりも対局数が少なくなるので、必然的に対局料が入ってこなくなります。
そのため、名人には対局料の補填として月約100万円が支給されています。
プロ棋士は、最高でどれくらいの年収まで目指せるか?
これまで解説したように、プロ棋士は勝つことが年収のアップに直結します。
なので、稼げる最高年収というのは究極に勝ち続けたらどうなるかという話になります。
トップ棋士たちの実力は拮抗しているので誰か1人が勝ち続けるというのはあまりないのですが、過去に1度だけその年のタイトルを総なめにした人がいます。
それが羽生善治九段です。
羽生さんは1996年に当時存在したタイトル戦七つ全てで勝ち、7冠独占を達成しました。
その年の対局料と賞金の合計は約1億6000万円と発表されています。
更に当時、前人未到の偉業ということでテレビ出演や様々な取材を受けており、それらを合わせた年収は2億円に届いていたと推定されます。
勝ってタイトルを複数獲得すれば年収1億円も目指すことができるのがプロ棋士ということになります。
そもそもプロ棋士になるためには
将棋を指すだけで平均年収約700万円~約800万円、トップは1億円以上も稼げるプロ棋士ですが、プロデビューへの道はかなり狭き門です。
一般的にプロ棋士になるためには、プロ棋士養成機関である「奨励会」に入会する必要がります。
この奨励会に入るためにはいくつか基準があります。
- ①満19歳以下であること
- ②プロ棋士の推薦があること
- ③プロ棋士の弟子であること
以上の三つを満たした上で試験を受け、筆記試験と面接試験を通過できて初めて奨励会入会となります。
その後、奨励会で三段まで段位を上げ三段リーグを勝ち抜いた上位2人のみが四段に昇段して、プロデビューすることができます。
三段リーグは約30名の棋士で構成されていて半年間のリーグ戦になるので、1年間でも新たにプロ棋士になれるのは4人しかいません。
また奨励会にも年齢制限があり、一定の年齢になると強制的に退会になります。
他にも、アマチュアで活躍した棋士がプロ棋士と対戦して一定の戦績を収めるとプロになれる制度や、奨励会に編入する制度もありますが、この制度を使ってプロ棋士になった人は数える程度しかいません。
ほとんどの棋士は小学生時代から奨励会で腕を磨きながらプロを目指しています。
中には中学生でプロデビューする棋士もいますが、奨励会に入っても8割はプロ棋士になれずに別の道を歩むことになります。
いかにプロ棋士になるのが難しいのかがお分かり頂けたかと思います。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
プロ棋士の年収事情、お分かり頂けたでしょうか。
自分の好きなこと、得意なことでお金が稼げる職業ですが、強さがダイレクトに年収に直結する厳しい職業でもあります。
こういう事情を知ることで、棋士を見る目が少し変わるかもしれませんね。
最終更新日:2020年7月4日