研修医の年収を徹底解説|給料・初任給手取り・賞与(ボーナス)・各種手当
一昔前の研修医は給与の保証が不十分であり、他の病院での診療−いわゆる「アルバイト」−をして生計を立てるなど、研修に専念できていないとの批判がありました。
しかし、平成16年以降、卒後2年間の研修を必須とする新医師臨床研修制度が始まってからは、「アルバイト」は禁止になると同時に、研修医の処遇は改善されるようになりました。
とは言え、研修先の病院によって給与額等は異なりますので、その詳細を具体的に紹介します。
研修医の平均年収は約430万円が相場
厚生労働省が発表した平成23年度の推計年収によると、1年目で約435万円、2年目で約481万円となっています。
ただし、以下で触れるように、これはあくまで平均です。
研修先の病院が、大学病院か臨床研修病院(いわゆる市中病院)かによっても異なります。
また、都道府県ごとの差も大きいです。
最大は青森県で1年目の年収が600万円ちかくなる一方、最小は宮崎県で350万円あたりが平均年収になります。
このように、研修先をどの都道府県にするか、大学病院と臨床研修病院のどちらにするかによっても、年収は大きく変わってきます。
また、夜間の診療業務である「当直」に多く入るかどうかでも、給与が多少なりとも変わってきます。
研修医の年収・給料の構成要素
研修医の年収は、「基本給」「当直手当」「賞与(ボーナス)」の構成になっている場合が多くあります。
基本給などはどうなっているの?
年齢や経歴に関係なく、一律に決められます。
大学病院では25万円程度から、臨床研修病院では30万円程度からが多いと考えられます。
各病院のホームページには月額のみ記載されている場合が多いですが、これは当直手当てや時間外手当を含めた額であるため、実際には月毎にかなり変動します。
また、様々な控除があるため、手取り額は実際にはより少なくなることを知っておく必要があります。
例えば、筆者が大学病院で初期研修を行い、当直が1度もない月の手取り額は19万円程でした。
一方、救命救急センターなど当直が多い診療科の場合は、手取り額で35万円~40万円ほどになった月もあります。
また、もしこれが都市部で一人暮らしだったとすれば、家賃や交通費などの固定費がかかるため、実質の手取り額はかなり目減りすることを覚悟しなければなりません。
当直手当はどれくらい?
1年目では、1回あたり15,000円~25,000円が相場でしょう。
2年目以降で手当てが上がる場合とそうでない場合があります。
臨床研修病院によっては、2年目以降は4万円〜5万円程度出す病院もあります。
このように見ると、1ヶ月の内何回当直業務に入るかどうかによって、月額の給与に大きな差が生まれることが分かると思います。
なお、大学病院でも臨床研修病院でも、平均的な1ヶ月の当直回数は、3回〜4回となっています。
したがって、1回あたり20,000円の当直手当てがつくところ、1ヶ月に4回当直を行えば8万円が基本給に上乗せされることになります。
一方、あまりないかもしれませんが、当直に1回も入らなければこの8万円は入らないことになるため、月毎の給与の差が大きく出るのです。
賞与(ボーナス)はどれくらい?
賞与は病院毎で差があるようです。
ホームページ上で「賞与なし」と明記している病院もあれば、年額100万円程度支給する病院もあるなど様々です。
賞与について記載がない病院もありますが、月額の給与が高めに設定されている分、支給されない可能性があるでしょう。
したがってホームページ上などで月額を提示する病院の年収を計算する場合は、賞与があるかどうかを確認すると良いでしょう。
ちなみに初期研修医を終えた後でも、勤務先の病院によっては賞与が支給されないところもあります。
各種手当はどういったものがある?
通勤手当や住居手当などがあります。
住居手当は、大学病院で平均24,600円、臨床研修病院で35,100円となっています。
また同程度の金額で寮を提供している病院も多く、給与から天引きしてくれる場合もあります。
大学病院では8割程度、臨床研修病院では9割程度が、宿舎や住宅手当を用意していると言います。
筆者は大学病院まで歩いて行ける寮に入りましたが、11,000円程度の家賃で済んだため、当直手当てが少ない月でも給与があまり目減りしませんでした。
一方、都心部の病院に勤め且つアパートなどの賃貸住宅から通勤する場合は、住宅手当があるものの高額な家賃を負担しなければならず手元に残る給与がかなり少なくなる可能性もあるため、注意が必要です。
研修医の新卒の年収とその後キャリアアップした場合の年収を見る
医学部に入学する人の中には、医学部以外の学部を卒業あるいは中退したり、社会人を経てきた方も少なくありません。
また、卒業して医師国家試験に合格した後、妊娠や出産、あるいは海外渡航や他の業種での社会人経験を経てから遅れて初期研修を開始する人もいるかもしれません。
しかしどのような方でも、それまでのキャリアとは関係なく、研修中の給与は変わりません。
一方、初期研修を終え自ら専門の科を選ぶ後期研修(すなわち医師3年目)以降、給与は格段に上がっていきます。
それは、いわゆる「アルバイト」ができるようになるからです。
この後詳しくご紹介いたします。
後期研修以降の年収
年収は650万円から850万円程度まで増加すると言われますが、これは常勤として勤める単一医療機関から支給される額と考えて良いでしょう。
3年目以降は、他の医療機関で定期的に非常勤医師として勤務したり、健康診断や外来などの「スポット求人」「スポットバイト」と呼ばれるような単発の仕事もできるようになります。
所属施設での当直手当は初期研修時代と大きく変わらない場合が多いと思われますが、これらの定期的な非常勤勤務やスポット求人での「アルバイト料」の単価は格段に高くなります。
結果的に、トータルの年収が1000万円を超える場合もあります。
特に大学病院に勤務する医師は、週1回定期的に大学以外の医療機関で非常勤として勤務することが多いです。
週1回の非常勤先から支払われる給与が大学病院の給与に相当する場合があり、年収の多くの割合を占めています。
このような大学からの「派遣」は医療過疎の地域医療を担っている場合もあるため、高い給与が保証されていると考えられます。
しかし、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、感染拡大を予防する目的で大学病院の医師が他の病院で非常勤として勤務できなくなると、格段に給与が落ちる可能性があります。
滅多にあることではありませんが、大学病院に勤務する医師にとってはこのような「地政学的リスク」が時に脅威となるのかもしれません。
研修医は、最高でどれくらいの年収まで目指せるか?
1年目の平均年収が620万円を超える病院は、全国で54ヵ所。
720万円を超える病院となると、10ヵ所しかありません。
大学病院における1年目の最大年収が424万円であることを考えると、平均年収620万円超えの病院は全て臨床研修病院であることが分かります。
600万円~700万円以上の高い年収を目指すのであれば、数も限られているため、必然的に研修先の病院が決まってくるでしょう。
ただし、研修医に対して年間720万円以上の給与を支払っている病院に対しては補助金を一定割合削減しているため、高額の給与を支給する病院は減ってきている可能性もあります。
研修医はどういった勤務先だと年収が高くなるか?
先にも述べた通り、大学病院よりも臨床研修病院のほうが年収が高くなる傾向にあります。
また、勤務地によって平均年収の高さが異なっているため、どの都道府県で初期研修を行うかどうかも影響します。
大学病院で働く場合の年収
1年目で平均約307万円(最小約184万円、最大約424万円)、2年目で平均約312万円(最小約184万円、最大約456万円)となっています。
臨床研修病院で働く場合の年収
1年目で平均約451万円(最小約236万円、最大約955万円)、2年目で平均約502万円(最小約242万円、最大約1003万円)となっています。
上記の通り、臨床研修病院で働く方が、平均して1年目で144万円、2年目で190万円も給与が高いことが分かります。
また、最小値と最大値の幅が臨床研修病院のほうが大きく、全ての臨床研修病院において給与が高いわけではないことも分かります。
都道府県毎の差
北海道、青森、秋田、山形、福井、静岡、滋賀の7道県は、1年目の平均年収が500万円を超えています。
一般的に、平均値が不自然に高い場合は、「外れ値」と呼ばれるような突出して高い数値がいくらか含まれていることを想定する必要があります。
大学病院の最大年収が424万円ですので、これらの県では臨床研修病院の平均給与の高さが全体の平均年収を押し上げていると考えられます。
一方、東京、新潟、大阪、岡山、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の8都府県では、1年目の平均年収が350万円~400万円程度であることに加え、2年目の平均年収が1年目の全国平均である435万円を下回っています。
もちろん医療施設毎の差は大きいでしょうが、これらの地域で給与の高い病院を探すことは、他の地域に比べて相対的に難しいことが予想されます。
働き方改革の影響
厚生労働省などが公開している公的な情報だと、給与は常に平均値(時に中央値)でしか論じられません。
しかし、病院毎の差はある程度分かったとしても、病院内でも常に変化が続いています。
その重要な背景が働き方改革です。
厚生労働省内で、「医師の働き方改革に関する検討会」が平成29年8月2日から開始されていました。
医師の残業時間が極めて多い一方、その規制が充分でなかったためです。
現在、各病院が初期研修医に対する残業の取り扱いに力を入れていると思われますが、実は給与に直結する場合があります。
かつては深夜まで病院に残ってカルテ記載などの業務を行っていたとしても残業代は支払われず、時給換算にすると最低賃金をはるかに下回ることもあります(筆者は初期研修医として大学病院で勤務しましたが、最低時給を計算すると600円程度の月がありました)。
これが、残業代を支払う代わりに残業の上限を設ける、という至極当たり前のことを実践するにしたがって、給与が上がる場合があります。
おそらく今現在も、各病院が改革に向けて試行錯誤している時期であると考えられます。
病院ホームページから得られる情報だけでは到底知り得ない部分もあるため、詳細な給与体系を知りたい場合は病院見学に行き、現在働いている初期研修医から直接聞くことを強くおすすめします。
これから研修医になる人へのアドバイス
ここまで、給与の内訳や、給与の額に影響する要因について書いてきました。
もちろん給与だけで研修先を選ぶ人は少ないと思います。
最も大事なのは、「この病院で研修したい」と思える病院を探すこと。
できれば、3年目以降のキャリアプランを考えたとき、その病院があなたにとって最適かどうかまで含めて考えることです。
とは言え、給与も大事な判断材料になる人もいるでしょう。
6年間借り続けた奨学金が相当な額になる人もいますし、有利子の借金は早期に繰り上げ返済するほうがお得です。
ただし、最初の2年間の差は、長い目で見ればそこまで大きくはありません。
3年目以降の医師が、みな同じように年収1000万円以上を目指せることは事実です。
もしあなたが初期研修先を悩んでいる人であるならば、貴重な初期研修医としての2年間を自分で最も納得のいく研修先で勉強できるよう、じっくりと悩んで研修先の病院を選んでください。
さいごに
経済的事情は人それぞれですし、給与が生活していく上で重要であることは明白です。
最初から高給を目指すのであれば、ほぼ間違いなく臨床研修病院を選ぶことになるでしょう。
しかし、3年目以降に収入が上がっていくことを想定することができれば、最初の貴重な2年間を過ごす病院を冷静に選ぶことができると思います。
医師として過ごす初期研修の2年間は、その後の医師人生を決定づけるものです。
自分への投資だと思って、給与面に引っ張られすぎずに決めることをおすすめします。
最終更新日:2020年5月15日